紺碧の向こう

卒論は新海誠論でした

【すずめの戸締まり】すずめは非巫女系ヒロイン?【登場人物解説】

ストーリーやテーマについてはもう少し掘り下げたいとも思うのですが、今回からは『すずめの戸締まり』の登場人物について書いていきたいと思います。

 

【注意】本エントリでは、『すずめの戸締まり』以外の過去の新海誠作品の登場人物について言及しています。

 

これまでの新海誠作品のヒロインたちは、「特別な力」を持っていることが多かったんですよね。私は彼女らを「巫女系ヒロイン」と呼んでいます。

ほしのこえ』のミカコは何故か国連に選ばれてパイロットとして宇宙に行ったし、

雲のむこう、約束の場所』のサユリは夢を通して別の世界に接続してしまうし、

星を追う子ども』のアスナは父親の形見の力で地下世界の音が聞こえるし、

君の名は。』の三葉は文字通りの巫女の力で少し未来の別の人間と入れ替わるし、

『天気の子』の陽菜さんは祈ることで天候を操作できるし。

 

秒速5センチメートル』の明里や『言の葉の庭』のユキノ先生は巫女的パワーは持ってはいなかったものの、それぞれ「世界の秘密みたい」な魅力で貴樹や孝雄を魅了します。

 

以上に述べたような巫女系ヒロインと比べると、『すずめの戸締まり』の鈴芽は家庭が複雑ではありますが、これまでの新海ヒロインと比べるとかなり普通のJKです。

日本を縦断しながら草太の代わりに扉を閉めるという重大ミッションをこなしていくことにはなりますが、これは「鈴芽が巫女的なパワーを持っているから」ではないんですよね。天岩戸伝説が名前の由来ですが、ストリップダンスするわけではないし。後ろ戸をくぐったことがあるからミミズが見えるというのは偶然で。もっと言えば他に誰かいれば別に鈴芽じゃなくてもよかったんですよ。

しかし鈴芽は行動力の塊です。スマホ1つでどこにでも行ってしまいます。(保護者の立場からすると本当に恐ろしいですね。でもまあフィクションなので…)

何が鈴芽をこうも突き動かしたのでしょう。災厄を解き放ってしまった罪悪感? それはあまり感じませんでした。当初は「目の前に困った人(草太さん)がいるから」程度だったかもしれません。しかし旅を通じて、先々で出会った人々に感謝し、「その土地で暮らしていた人々の残留思念」に触れ、草太さんの懸命さを間近で見て、使命感を強めていきます。扉を閉めて、鍵をかける。巫女的パワーなんて関係ねぇ。

そもそも「巫女的パワー」って「本人の意思とは関係なく周りを動かす力」なので、便利ではありますが割と他人任せの力なんですよね。そんなパワーを持たず行動する鈴芽は非「巫女系ヒロイン」というより非「ヒロイン」だったのです。

 

つまりヒロインは草太さん、君だ。